筒井くんと眠る夜 〜年下ワンコ系男子は御曹司への嫉妬を隠さない〜
翌朝は仕事に行く支度のために筒井くんよりも早くホテルを出た。
仕事なんて、どうせクビになるんだから行かなくても良いのかもしれないけど、筒井くんと離れるきっかけが欲しかったから。
「もしもし、小夜子です」
歩きながら電話をかける。
『あら、あなたからこんな時間にかけてくるなんて珍しいじゃない』
母の声は、私を現実に引き戻すのには一番効果的だ。
「お母さんが喜ぶ話があるから、早く伝えたくて」
『喜ぶ話?』
「うん。私、斑目さんに会うよ。それに結婚の話も進めて欲しい」
『あら! どうしたの、急に』
母の声がわかりやすくワントーン高くなる。
「なんだっていいでしょ? 気が変わらないうちに早く進めて。じゃあね」
可愛げのない態度で電話を切った。
母が、家のことだけじゃなくて、かわいい娘にちゃんとした人と結婚して幸せになって欲しいって思ってくれてることくらい、私にもわかってる。

***

「え? 社長付きの第二秘書……ですか?」
会社に行くと、クビどころか待遇の良くなるような辞令を理一郎さんの父である社長直々に伝えられた。
「理一郎が失礼なことをしてしまったようで、悪かったね。これからは私の秘書として第一秘書の枕崎君と一緒に力になってもらいたい」
「……はい」
失礼だったのは、どう考えても私の方だけど?
この仕事に情熱があるわけではないけど、辞めなくて済んだなら、結婚するまでは続けてみようかな。

でもどうして?

***

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