この唄を君に捧ぐ(誰にも言えない秘密の恋をしました)続編

再会 そしてその後

お店に戻るとニコニコ顔のハンナと、ガックリ落ち込む常連客が目に入る。

『すいません。仕事中に時間を頂いてしまい、俺もその分働きますから。』

と、蓮が流暢な英語でそう言うから、また心菜は驚いてしまう。

英語が喋れるなんて知らなかった…。

御曹司なんだもの、当たり前だよね…
そう思うと同時に、蓮の事はまだまだ知らない事ばかりだと実感した。

「心菜、仕事何時まで?
まだ話し足りないから、ここで待たせてもらっても良いか?」

「はい…ハンナさんに、言っておきます。」
久しぶりの蓮にドキドキしながら、心菜はぎこちなく答え仕事に戻る。

レジをこなしながら、洗い物や商品の補充、ハンナの調理の手伝いなど、ちょこちょこ動き回る心菜を蓮は心配顔で見つめている。

あんなに動いて大丈夫なのだろうか?

身重の心菜に負担では無いか?

そう思うとジッと見ていられなくなり、片付けを率先して手伝い始める。

夕方近くになると、コーヒー休憩で訪れる客がひっきりなしにやって来る。

その頃には、蓮もエプロンを付けてまるで店員の様に働いていた。

御曹司様にこんな事をさせてしまって良いのか…と心菜は内心心配で仕方がないが、蓮は何とも無いと言うように、黙々と仕事をこなしていた。

『素敵な旦那様ね。こんなに働いてくれる旦那が私も欲しいわ。』
ハンナはからかい半分で心菜にそう言ってくる。

『いえ、まだ結婚はしてないので…。』
心菜はなんと答えて良いのか分からない。

『絶対逃しちゃダメよ。
こんな素敵な人、どこ探してもなかなか居ないわよ。残念だけど、ライアンには諦めてもらうしか無いわね。』

『ライアン先生は私の恩人ですから、そんなとんでもない。』

蓮はレジをこなしながら、先程から2人の間で飛び交うライアンと言う名前に少しばかり苛立ちを覚える。

『あんたは、ココの何?』

客から突然声が飛ぶ。蓮は落ち着き払って、

『彼女の未来の夫です。』
と、憮然とした態度で伝える。

『はぁ?俺達の癒しのココを、独り占めするなんて許せないな。』

俺達の?心菜は俺のだ。

と、イラっとするが顔には出さず、

『申し訳ないけど、彼女を迎えに日本から来たんだ。彼女は俺の大切なフィアンセだ。』
常連客は蓮が醸し出す、揺るがない意志に少し慄きそして言葉を失う。

『俺達が許しても、ライアンが絶対許さないからな。』
そう、捨てゼリフを吐いて去って行った。

ここでもまた、ライアンか…。
蓮はため息を吐いて苛立ちを逃す。
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