この唄を君に捧ぐ(誰にも言えない秘密の恋をしました)続編
眉間に皺を寄せて心菜が目を覚ましたようだ。

慌てて俺は寝たふりをする。

モゾモゾと心菜が起き出し、こっそりと部屋を出て行く。
気分でも悪いのだろうか…?

何となく俺は察知して、少しの間の後、心菜を追うように寝室を出る。

案の定、バスルームに駆け込んだようだ。

バスルームのドアをノックするのも憚られ、心菜が出て来るまでソファでひたすら待つ。

それでもなかなか出て来ないから、部屋を行ったり来たりソワソワする。

冷蔵庫に向かいミネラルウォーターを取り出しコップに移す。

それを手に持ち、ノックをしようかどうしようかとウロウロする。

心菜の事になると判断に迷うのは否めない。
彼女の望まない事はしたくない。

こう言う時、男は何も出来ないと深いため息を吐く。

しばらくすると、ガチャっと前触れも無くドアが開き蒼白い顔の心菜が出て来る。

「大丈夫か?」
駆け寄り背中をそっと撫ぜる。

悪阻の傾向についてはリサーチ済みだ。
心菜の場合は多分見た感じ食べ悪阻だ。空腹時に気持ち悪さがやってくるらしい。

「ごめんなさい。起こしちゃった?」
こんな自分が辛い時でさえも俺に気遣ってくれる。

「いや、カラスの鳴き声で起きたんだ。俺の事は気にしなくて良い。水でも飲むか?」
背中を撫ぜてソファに座るように促す。

「ありがとう…。」

心菜は弱々しくそう言って、ソファに座り差し出したコップを両手で持って少しずつ飲み始める。

「何か食べた方がいいんじゃないか?」
そう思い、俺は冷蔵庫に向かい何かないかと探してみる。

野菜室にグレープフルーツが4つ5つ入っていることに気が付く。

これが心菜のアイテムなのだと瞬時に分かる。

悪阻の時、人それぞれに違いはあるが、ある一定の食べ物に執着する事があるらしい。
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