この唄を君に捧ぐ(誰にも言えない秘密の恋をしました)続編
「突然伺って申し訳ない。
丁度こっちに出張中で来ていて、仕事が早く片付いたから寄らせてもらったがお邪魔じゃなかったかな?」

蓮から聞いていたよりも、穏やかな雰囲気の義父にちょっとだけ緊張を解き、

「とんでもないです。
こちらの方こそ、本来なら直ぐにご挨拶に伺わなければいけないところ申し訳けありません。」
出来るだけ深く頭を下げて謝罪する。

「いや、頭を上げて欲しい。誤らなければいけないのは私の方だ。一方的に手切れ金を渡して2人を引き裂いてしまい申し訳ない事をした。」

そう言って頭を下げてくる義父を、心菜はやっとちゃんと見る。

見上げるくらいの背の高さと、圧倒的な存在感がさすが親子だなと思ってしまう。

「いいえ…
私が蓮さんのお相手として不釣り合いな事は充分承知してますし、お父様が警戒されたのは仕方が無い事だと思っています。」
と、心菜は胸の内を伝える。

コーヒーでもどうぞと、リビングのソファに案内する。
そして、心菜はいそいそとキッチンに向かい準備をする。

「お構いなく。
…君は身重じゃないか、そんなに気を使わなくていい。そうだ、手土産をと思って空港で和菓子を買って来た。」

ソファに座って待っているかと思った義父が、わざわざ歩いてキッチンまでお土産を持って来てくれる。 

大手企業の社長様なのだからと、心菜は丁重にお土産を受け取り、恐縮して身を縮こませてお礼を言う。

「もう、君も北條の一員になったのだから、そう簡単に頭を下げてはいけない。
それに私はアイツに嫌われているから、そうこの先会う事も少ないだろうし気にしなくて良い。」

義父は苦笑いしながら背広を脱ぎ、ダイニングテーブルの椅子にかけるから、心菜は慌てて背広を預かり丁寧にハンガーに掛け、蓮愛用のコート掛けに掛けて置く。

そのタイミングでコーヒーメーカーのドリップが終わりを告げるから、お客様用のソーサーを取り出しステック砂糖とミルクを丁寧に並べ、義父が居るダイニングテーブルにと運ぶ。

だけど、そこには作り置きの惣菜達を入れたタッパーが所狭しと並べていた事に気付いて慌てて謝る。

「申し訳けありません。散らかっていますので…ソファの方にどうぞ。」
と改めて席を進めるのだが、

「これを、全部君が1人で作ったのか⁉︎」
義父は驚いたように惣菜を覗き込み、コレは何だアレは何だと聞いてくる。

「もし…宜しかったら味見してみますか?
…お父様のお口に合うか分かりませんが…。」
遠慮気味にそう尋ねてみると、

興味深そうにどれも味見をしたがって、コレもアレもと指を指してくる。

取り皿一杯になった惣菜と、コーヒーを共に並べてみるが、お惣菜にはお茶の方が合うだろうと気を配り、

「今、お茶をお持ちします。」

と、心菜またいそいそとキッチンに向かう。

「…君は身重なんだから、そんなにバタバタしてはいけない。」

義父にそう言われ、コーヒーで充分だと椅子に座らされる。

義父は心菜が作った惣菜を食べながら、コレは何が入っているんだ?こっちでも日本の食材が買えるのか?と興味津々でいろいろ質問してくる。

心菜は少し戸惑いながら、その質問に応えると言う不思議な時間をしばらく過ごす事となった。

「そう言えば、蓮はいつこっちに帰って来るんだ?」
義父がふと、そう聞いてくる。

元々冷めた親子関係だ。今更取り繕う様な事はしないが、それにしても息子の事を知らな過ぎたなと、義父は苦笑いする。

「日本でかなり多忙だったようですが、明日の夜にはこちらに帰って来れるそうです。」
嬉しそうな顔で心菜がそう言う。

「アイツとは日本で会って入籍の報告は聞いたが…。しかし、もう帰って来るとは…早いな。」

それほどまでに早く彼女の元に帰りたいのかと、半は呆れるが、あの蓮をそこまで虜にしている彼女に興味が湧く。

「お父様はこちらにはいつまでご滞在ですか?」
義父は心菜から突然お父様と呼ばれて、驚き密かに嬉しさを覚える。

「私は商談がまとまるまで、1週間程こっちにいるつもりだ。」

心菜は勇気を振り絞り義父に問う。

「あの…もし良かったら、蓮さんが帰って来たらご一緒にお食事でもどうですか?
…私の手料理でお口に合えばですが…。」

少し強引過ぎただろうかと、最後の方は尻つぼみになってしまう。
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