この唄を君に捧ぐ(誰にも言えない秘密の恋をしました)続編
ちょっと待て。

今、日本が22時という事はLAは朝の6時だ。まだ、起きていないかもしれない…。
それに仕事前にあまり下手に聞き出せない。

迷った挙句、メールで今から飛行機に乗る事だけを伝えるのみで終える。

10時間のフライトの間、仮眠するつもりでいたのに上手く寝付けず、不安だけが積もっていく。

LAに到着するのは夕方の4時…
唇を噛みながら、苛立ちと焦りで込み上げてくるモヤモヤした気持ちをどうにか落ち着かす。

いつもなら寝ればあっという間に通り過ぎて行く時間が、今日はとても長く感じられた。

空港に到着してその足でタクシーに乗る。
心菜がいる家までは30分程で着く。
今は16時20分、仕事も終わって夕飯の支度をしている頃だろう。

心菜に早く会いたい。

家の前に到着して、自然と足が早くなる。

玄関の鍵を雑に開けながら勢いよく中に入る。
部屋中に夕飯の良い匂いがして、急に食欲を掻き立てられる。

この匂いは…ハンバーグか?
それだけで、子供のようにテンションが上がる。

廊下を足速に通り過ぎキッチンへとひた急ぐ。
それなのに…ガチャっと開けたドアの向こうに居るはずの心菜が居ない…。

急にドクンと心臓が嫌な音を立て、心菜が居なくなった日の光景が走馬灯のように脳裏を支配する。

瞬時に車のキーを握り玄関へと逆戻る。

何処へ行った?

手汗を握りながら車庫へと走る。

「蓮さん!お帰りなさい。」
どこかから心菜の声が幻のように聞こえてくる。
俺は振り返り声の行方を探す。

すると、心菜が手を振って、敷地前の道を歩いてこちらに来る姿が目に止まる。

俺は心底安堵して、走り寄りぎゅっと抱きしめる。

「ひゃっ!?」
びっくりした心菜はたじろぎながらも、ぎゅっと抱きしめ返してくる。

「良かった…。
また…いなくなってしまったのかと思った。」

「ごめんなさい。ワインが無かったから…買いに行って来たの。」

心菜が優しく俺の背中を撫ぜる。
泣きたくなるような時間が流れ、彼女の存在を確認するかのようにしばらく抱きしめ続けた。

「…ただいま。」
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