この唄を君に捧ぐ(誰にも言えない秘密の恋をしました)続編
アプリの地図を頼りに飛び降りるのに最適な場所を探す。

公園の角、芝生の緑地、近くにツヅジの腰高な垣根。

ここだ!と、蓮は咄嗟に判断をして運転手に伝える。

蓮の乗る社有車はロケバスの様なワンボックスカーだ。スライド式の入り口が功を成す。

急に左にハンドルを切った車にバイクは対応出来ず、大きくカーブが膨らみ距離が出来る。

車の速度が落ちた瞬間、蓮はドアから飛び出し一回転して衝撃を吸収する。

角には街灯も無く薄暗い。
腰高のツヅジの植え込みの後ろに身を隠し、バイクが去って行くのを見る。

上手くいった。
奇跡的に擦り傷も無い。

手にはスマホ一つだけ、後はひたすら心菜が運び込まれた産婦人科を目指して走る。

産婦人科の裏口に着いた時には息も切れ切れで、先程聞いた暗証番号を押して、敷地内に入り病院内を全速力で走り抜いた。

暗い廊下の1番奥に、バタバタと忙しなく動く人影がチラリ。

「すいません。緊急で運ばれてきた北條心菜の夫です。」
看護師の1人が足を止めて、こちらですと誘導される。

「心菜さん、マンションのエントランスで倒れてたみたいで、どなたかが救急車を呼んだみたいです。貧血で立ちくらんだ時にお腹をぶつけてしまった様なんです。脱水症状も少し見られるので今は点滴をしています。」

確かに貧血気味だったからずっと鉄剤は処方されていたが、なぜ…エントランスなんかに降りたんだ…?

「本人と話せますか?」

「ええ、処置室にいらっしゃいますが、先生が到着し次第、帝王切開で出産になります。
旦那様には同意書と入院手続きの方をご記入頂きますので、処置室の方でお待ち下さい。」

慌しく出産が決まって俺自体も動揺を覚える。きっと心菜は倍以上に不安で心を痛めている筈だ。

足速に処置室に向かう。
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