この唄を君に捧ぐ(誰にも言えない秘密の恋をしました)続編
10分、15分過ぎただろうか、個室のドアからノックが聞こえ返事をすると、

「お待たせしました。赤ちゃん連れて来ましたよ。」
看護師が透明な小さなケースをコロコロと、大事そうに運んで部屋に入って来る。

俺は椅子から立ち上がり目を見張る。

「検査も問題ありませんでした。さっきまで元気に泣いていたので疲れて寝ちゃいましたね。」

透明なケースを覗くと、両手で余るくらい小さい赤ちゃんがスヤスヤと眠っている。

俺にもこんな感情があるのかと思うほど、よく分からない感情が湧き上がり感無量になる。

思わず心菜を見ると眠ってしまったようで、起こすのが躊躇われる。

「抱っこは無理なんですけど、ここから手を入れて触れますよ。」
看護師が優しく話しかけてくるから、手を除菌してそっとケースの中に手を差し入れる。

戸惑いながら優しく小さな手に触れてみると、俺の人差し指の第一関節ほどしか無い小さな手が、ぎゅっと思いもよらない強さで握ってくるから驚き固まる。

「赤ちゃん反射の一つなんです。思ったより力が強くてびっくりしますよね。」

看護師に言われ、ああ、これが把握反射かと納得する。暇さえあれば育児書を読み漁っていたが、書物で得た知識も吹っ飛ぶくらいの感動を覚えた。

「凄いな…。」
呟き、じっと見つめてしまう。

どっちに似ているのだろうか?
色の白さは心菜似だろう。

「奥様も眠ってらっしゃいますし、少しこちらにお預けしますね。」

気を利かせてくれた看護師が、30分後に連れに来ますと言って部屋を出て行った。

そう言えば、先程から何度となくスマホが鳴っていた。ポケットから取り出して確認したら、ほぼ父からの着信だったから思わず笑ってしまう。

落ち着かせる為にも、チビの写真を撮ってメールを送る。既読が付くとほぼ同時に、スマホが震えてる。

「もしもし…。」
若干の面倒くささを醸し出し、ぶっきらぼうに話しかける。

『無事に産まれたのか?何の連絡もくれないから、こっちは気が気じゃなくて寝れずにずっと待ってたんだ。性別はどっちなんだ?
眠ってるようだが元気なのか?心菜さんは大丈夫なのか?』

矢継ぎ早に質問が飛んきて苦笑いする。

「男の子だ。検査も問題無くて、さっきまで元気に泣いてたらしい。心菜は疲れて眠っているが大丈夫だ。」

『お前は…もう少し感情と言うものを出さないか。』
淡々と話す俺に父がらしく無い事を言う。

「これでも、随分感動してるんです。両手で余るほどの小ささで、保育器が必要なのでしばらく入院になるそうです。」

『面会は出来るのか?』

「ええ、触る事は無理かも知れませんが、ガラス越しだったら大丈夫だと思います。ただ、大勢で押し寄せると心菜を疲れさせるので辞めて下さい。」

『分かってる。明日、面会時刻に少しだけ会いに行くからな。これでやっと安眠出来る。』
父のホッとした声を聞き通話を切る。

心配しているであろう心菜の兄、一心にも写真を送り俺の任務は完了する。

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