この唄を君に捧ぐ(誰にも言えない秘密の恋をしました)続編
ホテルの最上階。スイートルームに記者よりも先に到着する。

「しかし、男2人でスイートルームも何だか落ち着かないな。」
先程から龍二はソワソワと部屋を歩き回っている。

「少し落ち着け、目障りだ。」
俺は記者についての情報と、作り上げられた北條蓮の人間像について、出来るだけ吸収しようと資料に目を通す事に時間を割いている。

今まで全くと言っていいほど、北條蓮が世間からどう見られているのか気にした事が無かった。
そのぐらい無関心だったから、嫌われているのか好かれているのかそんな事はどうでも良かった。

「なぁ、蓮。お前の出生は話してもいいのか?
実家とも今は和解したんだからもう隠す事も無いだろ。」
龍二がそう聞いてくる。

「出来ればそれは避けたい。親に迷惑かけてまで守りたい地位じゃ無い。」

「だからって、簡単に辞めるなよ。」

龍二が1番心配している事を露とする。

蓮にとって歌を作って唄うと言う事はある種の仕事であり、例えば営業マンが契約を取るために、プレゼンするような感覚に近いんじゃないかと思っている。

それだから蓮にとっては簡単な作業で、その才能をひけらかす事も、大した事無いと言い退けてしまう事も出来てしまうのだ。

そしてその築き上げた地位さえも、今の蓮なら家族の為に、簡単に手放してしまうのではないかと心配になる。

「簡単には辞めないから心配するな。」
笑いながらそう言う蓮を見て、少し安堵する。

「でも、心ちゃんに辞めて欲しいって言われたら直ぐ辞めそうだ。」

「心菜はそんな事言わない。
彼女は自己犠牲の上に成り立ってるような立派な人だから、きっとまた俺の前からサッと風のように消えてしまうんだ。」

ふぅーと蓮が深いため息を吐く。

「そうならないようにも慎重に話を詰めないといけないな…。」
龍二は今日のこの日がどれだけ重要なのかと言う事を実感し、思わず天を仰いで頭を抱える。
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