この唄を君に捧ぐ(誰にも言えない秘密の恋をしました)続編
10分もしない間にコーヒーが運び込まれ、それを俺は静かに一口啜る。

「まずは、私から村上さんにお礼をしなければならないと思っておりました。

貴方は意図知れず、世の中に向けて北條蓮と言う人物像を作り上げてくれた。だから私は、それに合わせて北條蓮と言う別人格の人間で人前で立つ事が出来たんです。
芸能人として負のイメージはマイナスだと思われがちですが、自分としては生き易く楽なポジションだったので感謝しています。」

村上は眉間に皺を寄せて明らかに不機嫌になる。

「…俺は…北條蓮を芸能界から追放したくてあんな記事を書いていたんです。それなのに何故あんたは今ものうのうとその場所にいるんだ?」
睨み付けてくるその視線は痛いほどに憎悪に満ちている。だけどその挑発に乗る訳にはいかない。

「何故か分かりません。ただ、時代のニーズにたまたま合っていたんじゃないでしょうか。
だけど、今更ながら等身大の自分で勝負したいと思い始めました。例え人気が衰えたとしても構わない。単刀直入に言います。真実を記事に書いてもらいたいんです。」

村上は厳しい顔を崩さず思案し始める。
数分の沈黙の後…

「それは…本気ですか?
俺はすでにあんたが同棲している事を掴んでいます。スクープ写真を狙って最近張り付いていたんですが…。」

「医療従事者の高橋さん…貴方の差金ですよね?」
どうしても心菜の事になると怒りを隠しきれず、声が1オクターブ低くなる。

それを素早く察知した龍二が話しを受け継ぎ、

「最近の貴方は堂々と、隠れる事無く蓮の前に現れていた。先制布告していたつもりだったのですか?」
単刀直入に質問する。

「そろそろ俺の存在に気付いて欲しかったんですよ。心理的に圧をかけて、精神的に追い込めばあなたの方から必ず何らかのコンタクトがあると思っていたんです。あわよくばスクープ写真も撮れますし。

ただ、彼女が貴方と本当に同棲しているのか確信が持てず、元同僚の男に情報を流して泳がせてみたんですよ。
まさか妊娠中だったなんて、高橋だって知らなかった筈です。」

ニヤリと笑う村上の不敵な笑みを2人は見逃さなかった。蓮は握り締めた拳に力を込めて怒りを抑える。

「貴方のせいで彼女は早産したんです。結果的に2人共無事だったから良かったけれど…。本来なら傷害致死罪で訴えたい所だ…。」
蓮はそう言ってしばらく村上を睨み続ける。

「だけど、あんたらは俺を利用したいんだろ?
肯定的な記事を書かせて世の中の人々に、北條蓮のイメージを良くさせたい。

それで俺は稼げるし、あわよくば人気が低迷して、北條蓮を芸能界から抹消させられるかもしれない。お互いウィンウィンだ。これで和解しようじゃ無いか。
それで2人の写真は撮らせて貰えるの?」
村上の言葉が崩れて本性が出始める。

俺は何とか怒りを抑える為目をつぶり、無理矢理気持ちをフラットにする。

「彼女はあくまで一般人だ人目にさらすつもりはありません。」

「へぇー。入院中は2人でいる所を撮らせてくれたのに?」

やはり、心菜があの時の看護師だと気付いていたのか…。
俺を追い詰め蹴落としたところでこいつに何の徳があるんだ。ただの自己満足に過ぎないのに。
奥歯を噛み締めて言葉を発する。

「あれはワザと利用させて貰ったんです。病院での彼女の立場を守るために…あの節はありがとうございました。」
和かさを演じ、今までの怒りが無かった事になるように仕向ける。
こっちが主導権を握る為、気持ちを押し殺さなければならない。
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