占いとは当たるものらしい
「キス、していいですか」

挑発的に課長が、右の口端を持ち上げてニヤリと笑う。
愉悦を含んだ瞳を、レンズ越しにただ見ていた。
……なんでこんなことになってるんだっけ?
原因を考えるが、空回りする頭ではなにも思い当たらない。
私の答えなど待たず、ゆっくりと傾きながら課長の顔が近づいてくる。
間抜けにもそれを見つめたまま、今日一日を思い出していた。


出だしは、普通だったと思う。

『本日のラッキーは乙女座のあなた。
気になるあの人と思わぬ急接近。
ためらわずに一歩踏み出すと未来が開けます。
ラッキーアイテムは歯ブラシ』

「なーにが『気になるあの人と急接近』、だ」

出勤の準備をしながら、テレビにツッコむ。
確かに私は乙女座だが、急接近もなにも〝気になるあの人〟とやらはいない。
そもそも、社内女子ヒエラルキーがあるとすれば底辺確定の私に、恋などできようはずがない。
ゆえにあの占いは大ハズレなのだが、まあ星座占いとはそういうものだろう。
わかっていて毎朝チェックし、一喜一憂しているわけだし。

「じゃ、今日も頑張っていきますかね」

鏡に映る自分を見て、最終確認する。
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