月夜に1人の私を見つけて
目を向けると…気迫に満ちた大和が、男の腕を掴んで雪奈に顔を向けていた。
「何してんの。」
「…の…みや…く…」
まともに声が出ない雪奈の様子と表情から、只事ではないことを悟った大和は、
立ち止まって振り向いた男の方へ顔を向けると「離せよ」と呟いた。
いつもの大和からは想像できない、低い声だ。
「なんだ、にーちゃん?この子の知り合い?」
「あんたに関係ねーだろ。いいから離せよ。」
「離さねーよ。これから、俺のスーツ汚した弁償をしてもらうんだから。」
大和の要求を無視してそのまま歩いて行こうとする男の腕を、大和は離さない。
「離せって。」
「ってーな!なにすんだよ!」
よほど強い力で握られたのか、男はパッと雪奈の腕を離し、大和に握られていた部分をもう片方の手で擦っている。
「…いこ。」
大和はそう言うと雪奈の背中に優しく手を当てて歩き始めた。
「てめー、無視すんな!」
男が駆け寄ってくるのを察知した大和が後ろを振り返ると、顔に向かって飛んできた拳が大和の頬に少し当たった。
しかし、怯むことなく、大和は拳が引かれる前にその腕を掴み、そのまま男の腹に強烈なパンチを食らわせた。
酔いもあってか、よろけてその場に倒れこんだ男を見た大和は「走れ!」と声を掛けると雪奈の手を掴み、植木の間を抜けて道路に出る。
そして、ちょうど目の前に止まっていたタクシーに2人で乗り込んだ。
「とりあえず、出してください!」と大和が運転手に声を掛けると、タクシーはそのまま動き出した。