月夜に1人の私を見つけて

下弦の月―かげんのつき― 真夜中


次の日。


昨晩はなんとか心も落ち着き、眠ることができた。

変な男に絡まれた恐怖心がありながらも、
大和が気持ちを落ち着かせてくれたことで、
睡眠を取ることができたのは間違いない。


──お礼、したいな。


でも…

傷心の身であることは、大和に少し勘付かれている。


その上で、家まで送ってもらって、抱きしめてもらって、頭を撫でてもらった。


それで『お礼に、よかったらご飯でも』なんて自分から言い出したら、
失恋した寂しさを埋めて欲しいだけの惨めな先輩だ、とか思われないだろうか。


営業上手な大和のことだ。

きっと、雪奈のことを

惨めだとか、

(あわ)れだとか、

少しでもそう思っていたとしても、

表に1ミリも出さずに『ご飯、いいですよ!』と返してくれるに違いない。


後輩に変に気を使わせて、無理なんかさせたくなかった。


それに、未だに食欲不振でもあるから食事には誘えない。


「雪奈さん?」


トン、と肩に手を置かれ、驚いて振り返ると。


「に、二宮くん!」


今の今まで、大和のことを考えていたからか、声がうわずった。


大和は少しびっくりしたような表情で雪奈を見つめている。


その顔の左頬が、少し腫れているように見えた。

そして、唇の端も、少し切れている。

昨晩、男の拳が当たったのがケガの要因だろう。


「二宮くん、その顔…!」


朝の挨拶をすることも忘れ、思わず声を上げてしまった。


そんな雪奈の様子に反して、大和はニカッ笑ってみせた。
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