月夜に1人の私を見つけて

「雪奈さんの営業2課って、今が繁忙期ですよね?」


フロアに戻る上りのエレベーターをホールで待っている間に、大和が雪奈に尋ねた。


「そ。二宮くんたち営業1課が取ってきた契約を引き継いで発注先とやり取りするのが私たち2課の仕事だからね。先月末までの分と年末までの急ぎ案件で結構立て込んでるよ。」


「ですよねー。いつも退社は何時くらいすか?」


「んー、20時とか、21時とかかな。」


「そっか。」


そう呟くと、大和が雪奈の方に目線だけ向けた。


「…今日、一緒に帰りません?俺、待っとくんで。」


「え!?」


雪奈が驚いた瞬間、エレベーターが到着したので、ひとまず他の社員と一緒に乗り込む。


エレベーター内で他の社員とぶつからないよう、体を縮こませながら、さっき大和に言われた言葉について考えてみた。



──待ってますって…。昨日みたいなことが起きるんじゃないかって心配してくれてるってこと?


そんなに心配しなくても、あんなことがあった以上、もうあの公園に寄って帰ったりしないのに。


営業1課のフロアに着いてドアが開く前、大和の顔が雪奈の耳元に近づいた。


『仕事、終わったら連絡くださいね。』


大和は雪奈の耳元でそう囁くと「すみません、降ります。」と言いながら、他の社員の間を抜けてエレベーターを降りていった。


『待ってなくていいよ』と断ろうとしたが、完全にタイミングを逃した。



──また、夕方連絡すればいいか。



そう思いながら、雪奈は次のフロアでエレベーターを降りた。

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