月夜に1人の私を見つけて
その日の午後は、忙しすぎてあっという間に過ぎていき、
雪奈がいるフロアで働く人は、ほとんど誰も定時に上がらずに、仕事をしていた。
雪奈もその1人。
やっと一段落つき、次の業務に取り掛かる前に一息つこうと、
もう冷めてしまったミルクティーが入ったタンブラーに手を伸ばす。
ふと、その近くに置いていたスマホのランプが光っていることに気づいた。
はっとして、時計を見ると19時を回ったところだった。
スマホの画面を急いで開くと…
『二宮大和』の字が。
『雪奈さん、おつかれさまです!俺、仕事終わりましたよ!会社の近くで待ってるんで、終わったら連絡ください。一緒に帰りましょう。』
受信時間、18時。
もう1時間も未読のままにしていたことになる。
しかも、まだ今日やるべきことが残っている。
誰も帰っていない状況も考えると…まだ帰れない。
『ごめんなさい!今メッセージに気づきました…。せっかく待っててくれたのに申し訳ないけど、まだ帰れそうにないから、帰ってもらって大丈夫です。気を使わせてごめんね。』
そう送った瞬間、既読がついた。
ミルクティーを一口また飲んで、スマホを机に置き、パソコンに目を向けた瞬間、スマホが震えた。
『俺が雪奈さんを送りたいから待ちたいんですけど、迷惑ですか?』
待ちたい、という言葉に思わずキュンとした。
そんな言葉をかけてもらえるような先輩でもないと思うのだが…。
『ありがとう。二宮くん、優しいね。迷惑ではないけど、やっぱり申し訳ないから…今日は帰ってもらって大丈夫だよ!お気遣いなく〜!』
いい先輩でいたくて、できるだけ明るい印象のメッセージになるようにしてみた。
既読になり『分かりました。』とだけ来たメッセージを確認し、ホッとしたところで、また業務を再開した。