月夜に1人の私を見つけて
大和が案内してくれた店は、こじんまりとした居酒屋だった。
外に立っていても、店内の笑い声が聞こえてくる。
「ここの店、昼は定食屋なんです。外回りの時にたまに来てて。夜は、酒飲まなくても全然オッケーな居酒屋さんです。」
入りましょ、と雪奈に声をかけながら、そっと背中に手を回して中に入るよう促してくれる。
「いらっしゃいませ…あらー、大和くんじゃない!」
暖簾をくぐって中に入ると、料理を運んでいる女将さんがにこやかな笑顔を向けてくれた。
店内は程よく賑わっている。
楽しそうな笑い声もそこここから聞こえてきて、家庭的な雰囲気が出ている店だった。
「こんばんは!会社の先輩、連れてきました。」
「あら、珍しい。お座敷空いてるから、どうぞどうぞ。」
女将さんが目線を送った先にあった座敷に、雪奈と大和は靴を脱いで上がった。
向かい合って座り、メニュー表を眺める。
「わぁ、すごいね!メニュー豊富!」
そんな雪奈の反応が嬉しかったのか、大和は柔らかく微笑む。
「でしょ?色々選べる方がいいかなと思ってここにしました。」
「ありがとう。こんなに良いお店、知らなかったな。何頼もっか?」
2人でメニュー表を覗き込みながら、いくつか料理を注文した。