月夜に1人の私を見つけて
「…して欲しいなら最初から言ってくださいよ。断わられるの、ツラいんですから。」
抱きしめながらそう言った大和に「ごめん」と言って言葉を続ける。
「でも、後輩にあんまり気を使わせすぎるのも悪いなと思って…。」
「悪いなんて思わないで。」
そう言った大和は、更に腕に力を込め、強く、優しく、抱きしめてきた。
「俺が、抱きしめたいんです。雪奈さんを。」
耳元で聞こえた大和のその言葉が、なんだか切なくて、キュンとした。
ドキドキし過ぎて、頭が上手く働かない。
なんと返せばいいのだろうか。
何も言えずにいる雪奈の耳元で、大和がまた言葉をかける。
「毎晩…こうやって抱きしめたいって言ったら、迷惑ですか?」
「え!?」
──毎晩って、もう付き合ってるレベルなんじゃ…。
戸惑っていると、大和はゆっくりと雪奈から離れた。
「…すみません、調子のった。今の、忘れてください。」
そう言うと、大和は呆然と立ちすくむ雪奈の前でサッとバイクに跨がり「おやすみなさい」と言うと、颯爽と走り去って行った。
雪奈は、大和がバイクで立ち去った後も、しばらくその場に立っていた。