月夜に1人の私を見つけて

『俺が、抱きしめたいんです。雪奈さんを。』

『毎晩…こうやって抱きしめたいって言ったら、迷惑ですか?』


いくら営業上手な後輩だからといっても、そこまで言われると、割り切れるものも割り切れなくなってしまう。



──私に、好意もってくれてるのかなとか、期待しちゃうじゃん。



新人なのに、数か月で『営業部のエース』と呼ばれ、

爽やか好青年で、人との距離を詰めるのが上手くて、

アイドルのように無邪気な笑顔と人当たりの良さで女性社員から人気で。


そんな、絵に描いたように魅力的な男の子が、

2年半付き合った彼氏にあっさりとフラれた可哀そうな女を、

好きになるわけ、ない。



そんなこと、分かっているのに。



──二宮くんからもらう、ちょっとした言葉とか、抱きしめてくれる時の腕の強さとか、私と目が合った時の笑顔とか、全部が彼に惹かれる理由に繋がってしまう。


もう分かってしまった。


──私、二宮くんに惹かれてる。2年半付き合った元カレと別れてまだ半月(はんつき)も経っていないのに。もう他の(ヒト)を好きになろうとしている私、軽すぎない…?



『2年半付き合った元カレと別れたばかり』

これが、どうしても雪奈の中で引っかかっていた。



傷が癒えていないからなのか、

それとも、彼氏と別れてすぐ他の(ヒト)を好きになることに対して単に抵抗があるだけなのか。


心の中の引っ掛かりをどうすれば外せるのか。
正直、雪奈自身も分からなかった。
< 43 / 81 >

この作品をシェア

pagetop