月夜に1人の私を見つけて
「いや、ですか?」
真っ直ぐ見つめてくる大和の視線から逃れられない。
「いや…じゃないよ?」
雪奈がそう言うと、大和はホッとした表情になり「よかった」と呟いてから、柔らかく笑った。
そんな表情とは裏腹に、熱い視線で見つめてくる大和を見て、途端に顔が熱くなるのを感じた。
「わ、私…!そろそろ戻らないと!」
赤面しているだろうことを隠すように、サッと立ち上がり、足早にゴミ箱に近づくと、急いで缶を捨て、さっき通ってきた非常階段の方に向かう。
「コーヒーごちそうさま!気をつけて帰ってね。」
非常階段へ出るドアを急いで引いて、上の階に続く階段に足をかけた。
「雪奈さん!」
逃げるようにして階段を登りかけた雪奈に、いつの間にか追いついた大和は、優しく雪奈の手を取り、振り向きざまに抱きしめた。
「…!」
階段の途中で壁を背に立たせた雪奈を、大和が思いきり抱きしめている。
大和の香り。
力強さ。
息遣い。
間近にある、大和の顔。
全てが雪奈の五感を刺激してくる。
心臓がドクンドクンと脈打っている。
そのまま何も言えずにいると、雪奈を抱きしめたまま、大和が耳元で囁いた。
「…その日、伝えたいことがあるんです。」
「伝えたい…こと?」
雪奈が尋ねると、大和はコクッと頷いた。
そして、ゆっくり雪奈から体を離すと、雪奈の顔を覗き込んできた。
二重まぶたの、くっきりした目。
大和の目線が雪奈を捉えて離してくれない。
しばらく見つめ合うと、真剣な表情のまま、大和が呟いた。
「25日。絶っ対に予定空けといてください。」