真珠の首飾り、あるいは女王の薔薇
「本日は、訪問をお許しいただきましてありがとう存じます。わたくしは、女王陛下の書簡係を勤めております、ジュディス・プリムローズと申します。お初に御目文字つかまつります」


深く下げた頭に、丁寧なご挨拶をありがとうございます、と穏やかな声が降った。微笑みを感じる、手慣れた始まり。


「アレクサンドラ・メルバーンと申します。この度は栄誉に浴す機会をいただきまして、たいへん光栄に存じます。夫エグバードは不在のため、我が夫に代わり、メルバーン公爵家を代表してお礼申し上げます」


丁寧な挨拶をいただいた後、ふわりと雰囲気が柔らかくなった。


「どうぞこちらにいらして。ゆっくりお話させていただきたいわ」


掴みは合格したらしい。よかった……!


「ありがとう存じます。失礼いたします」


夫人からもう一度誘われ、メルバーン卿に目で促されてようやく、ふかふかの絨毯に足をかける。


このあたりを適当にすると、いくら女王陛下のお望みとは言えど、無礼者に渡す花はありません、などとなりかねない。

お願いは聞いてもらえたのだから、精一杯丁寧にしなくっちゃ。


客間女中(パーラーメイド)が、うつくしい紅茶を淹れてくれた。公爵家のメイドにふさわしく、目鼻立ちの整った綺麗なひとである。


夫人が口をつけ、メルバーン卿が口をつけ、それからわたしの番。……美味しい。


「お口に合うかしら」

「はい。たいへんよい香りですね」

「ありがとう、よかったわ」


口調を崩してくれているのは、わたしのためだ。私的な場だから失敗はご愛嬌、今日は無礼講という合図。


ほんとうに助かります。ありがとう存じます。
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