真珠の首飾り、あるいは女王の薔薇
「あなたが、あの薔薇のきみなのね。お会いできて嬉しいわ」


薔薇のきみなんて久しぶりに言われた。メルバーン卿は専ら、ジュディス文官と呼んでくれるもの。


夫人は優しく微笑んでいて、おそらく、今日のこちらの訪問を喜んでくださっている。

叙爵の効果がすごい。というか、夫人がすごい。


叙爵式はまとめて行うもの。


わたしは陛下が直接お調べなさっての異例の採用ゆえに、城に召し上げられた時期での同期はいないけれど、叙爵の時期が同じという意味での同期ならば二桁いる。

叙爵の査定は年に何回かあり、その度にまとめて大勢が叙爵されるのに、その中のたったひとりを覚えておいでとは。


もちろん、家に招くのだから当然、安全を考慮する意味も含めて、こちらの身の上をいろいろとお調べになったのでしょうけれど。


「はい、ありがたくも陛下の薔薇を拝命しております」


なんとか返事をしたものの、驚きがにじんだ言葉じりに、夫人は扇子を広げてたおやかに笑った。


「愚息から聞きました。あなたはたいへん有能で、陛下の覚えめでたく、努力を欠かさない方だそうですね」

「……たいへん光栄なお言葉をありがとう存じます」


愚息と呼ばれた男性は、どこ吹く風とわたしの隣で紅茶を傾けている。


メルバーン卿、……いえ、ここのご家族はみなさんメルバーン卿ね。ええと、ウィリアム・メルバーン卿。

あなた、なんてことをお母さまに吹き込んでいらっしゃるの……! ものすごく、ものすごーく答えにくいわ。
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