真珠の首飾り、あるいは女王の薔薇
わたしが真摯に前を見つめる中、夫人は静かに紅茶を一口傾けた。

わたしたちの間の静寂を、メルバーン卿が淡々と見据えている。


ぱちん、と公爵夫人が扇子を閉じた。


「わたくし、白鳥を一目見たいの。是非とも、わたくしの橋を架ける手伝いもお願いしたいわ」


白鳥は白を尊ぶこの国の国鳥である。


つまり陛下の暗喩であり、陛下と公爵夫人にも繋がりが欲しいということ。今回に限って言えば、花を譲りましょうということになる。


「お言葉ですが、その橋はもうすでに固く結ばれておいでです」


言葉選びの意味は正しく伝わるお方よ。架けるではなく、結ぶがふさわしいわ。


陛下はたいへんお喜びになるでしょう、と言外に伝えると、夫人が艶やかに笑った。


「あら、ではその代わり、わたくしと姉の橋を強固にしてくださらないかしら。久しぶりの手紙に、思い出深いうつくしい花を添えたいわ」

「喜んで承ります。後日インクをお贈りしにあがります」


今すぐ花園に行くので、ついていらっしゃい。お返しは手紙に使ったものと同じインクでよいわよということだ。

……そ、そうよね!? 多分そう。きっとそう。


傍目には、花なんだか橋なんだかインクなんだか分からない会話に夫人は満足気に頷き、唇を弧にした。


ひとまず合格したらしい。よかった。
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