真珠の首飾り、あるいは女王の薔薇
世間話の傍ら、公爵夫人は庭師に頼んで、離れたところに用意してあった小さな鉢を四つ持って来させた。


陛下のご希望の花が、赤、黄、桃、白の四種類、足元の低い台の上に鉢ごと置かれ、色違いに揺れている。


「陛下に差し上げるのなら、白がよいと思うの。陛下を連想するにふさわしい高貴な色よ。いかがかしら」

「ええ、素晴らしいお考えですわ」

「ありがとう。ではそうしましょう」


夫人は再び庭師に頼んで白い花の鉢をずらりと持って来させ、わたしにその中から選ばせてくれることになった。


庭師が鉢を抱え、ひとつずつ、いろいろな向きで見せてくれるのを、ゆっくり時間をかけて観察する。


じい、と鉢を見ては「もう一度先ほどのものをお願いします」「少し傾けていただけますか?」「ふたつ一緒に持っていただくことは可能ですか? 並べて比べたいのですが……」などと庭師にあれこれ頼むわたしに、夫人が穏やかに笑った。


「ジュディスさん、こちらは少し小ぶりでしょう。こちらはこの部分が少し萎れてきているの。ですから、このふたつはおやめになった方がよろしいわ」


たおやかな指先で示された部分を改めて見てみると、なるほどその通りだわ。


「ありがとう存じます。では、そのふたつはやめておきます」

「ええ」


黙って見守っていた公爵夫人が、わたしに助け舟を出してくれるとは思わなかったわ。


ともすれば「これを選びなさい」という指示になってしまいそうなところ、無理をおして助言をしたのは、かわいそうな庭師のためだとは思うけれど。

玉のような汗を拭う庭師が、明らかにほっとしているもの。


「申し訳ありません。どれも素敵で立派なお花ばかりで、目移りしてしまって……」

「あら、お上手ね」

「ほんとうのことですわ」


鉢の向きを変え、ためつすがめつし、十以上の花の中から、なんとかひとつに絞る。
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