真珠の首飾り、あるいは女王の薔薇
用件は終えたのでお(いとま)しようとしたのだけれど、ジュディスさん、とすっかり定着した呼び名で引き留められた。


「はい、なんでしょう」

「お帰りの前に、この中からお好きなものをおひとつ、どうぞお持ちになって。わたくしからあなたにお贈りするわ」


一瞬意味を掴み損ねて、え? と首を傾げ。

揃えた指先でたおやかに指し示された花々を見たけれど、どうしても信じがたい思いが膨らんで、言葉と指先の意味を掴むことを頭が拒否している。


「いえ、いただけません……!」


こちらの悲鳴じみた返事に小さく喉を鳴らして、夫人は手慣れた言葉選びをした。


「先ほどあなたは、ご自分からわたくしに橋を架けてくれたわね。わたくしと姉との関係を、強固にする手伝いまで申し出てくれたわ」


では。


「わたくしから、あなたに橋を架けさせてほしいと望むのは、いけなくて?」


……公爵家の夫人として選ばれるお方には、理由がある。きちんと家の切り盛りをしているお方なら、なおさら。
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