真珠の首飾り、あるいは女王の薔薇
まず、ひとつ。よいところから。


「陛下。こちらの、『長くなってしまいそうですから、名残惜しいですが、そろそろ終わりにしようかと思います』というのは、すてきですね」

「そう? よかった」

「はい。配慮とお茶目な名残惜しさを感じます。控えめでいて、可愛らしい感じがいたします」

「では、毎度書くことにするわ」


権力や権威をうかがわせるのを、『長くなってしまいそうですから、名残惜しいですが、そろそろ終わりにしようかと思います』と末尾に記すことにより、謙虚さで和らげようとしている。


文字を書くという賢しらさ、女王という立場に当然まとわりつく権力の圧を、読む、話すという謙虚さで和らげようとする、健気な文だ。


ふたつめ。これもよいところを。


「陛下。こちらの、『わたくし』というものも、素晴らしいと思います。『女王たるわたくしたち』よりも、もっとずっと私的な感じがいたします」


尊厳の複数を、ただの一人称に代えようという試みは、日付を見るに、ほんの数ヶ月前に始まっている。


以前わたしが仕えていた夫人に話を聞いたという時期と一致しているから、話を聞いて取り入れてみたのでしょうね。


威厳があるのはたいへん結構だけれど、そればかりでは夫の心を得られない。

うまいやり方だわ。
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