真珠の首飾り、あるいは女王の薔薇
「滅相もありませんわ、たいへん嬉しく存じます」

「ありがとう。どれも選りすぐりだから、少しは日持ちすると思うわ。意地悪をしてしまったお詫びよ」


意地悪というのは、わたしを薔薇のきみと知りながら試したことを指しているのでしょうね。

陛下の臣下たるわたしを、まさしく陛下の薔薇と知りながら試すことは、陛下のご威光を試すことと同じ。


わたしが自分の身分を示すもの、陛下から賜ったものを身につけているときには試さずに、何も身につけていないときに試した。それは確かに、意地悪に見えるのかもしれないわ。

でも。


「いいえ、意地悪など。大切なお花を譲っていただくのですもの、ご確認いただく必要があるのは当然ですわ」


陛下のご希望だからとおもねって、臣下がなんでも差し出すのは、国にとってよくない。


いくら頂点に立つお方とは言え、命じればなんでも叶うなどと思うようになってはいけない。ときにはお(いさ)めしたり、物申したりする臣下がいてもよい。

その方が、国は健全に保たれ、細やかな治世になる。


陛下の判断を鈍らせ、結果、陛下が暗君に堕ちたなら、この国諸共わたしたちの暮らしが立ち行かなくなるのだもの。


だからわたしは、自分よりも身分も年齢も経験も上の人から丁寧に確認されたくらいで傷ついたりしない。必要なことよ。


意地悪だなんて言われても、こちらはそう思っていない以上、お詫びをもらう理由がないもの。ぶんぶん首を振りたくなったのに耐えただけ偉いと思うわ、わたし。
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