真珠の首飾り、あるいは女王の薔薇
「土が難しい花なの。ですから、鉢の土はこのまま変えず、あたたかい場所で定期的に水やりをしてもらえれば問題ないと思うけれど、陛下に差し上げるものに何かあったら困るでしょう」


何かあったときの予備と思って、などと夫人は上手くおっしゃるし、「ジュディス文官。どうかもらってやってほしい」などとメルバーン卿は重ねて退路を塞ぎに来るし、いただく以外にないじゃないの。


生花は貴重である。

陛下のお祝いのお気持ちを伝えるうえで、手紙に添えるなら生花の方がよい。珍しい色であればなおさら。


万が一のことを考慮して、予備の花をひとつ確保しておくのもおかしな話ではない。

株分けでしか増えない、育てるのが難しい貴重な花なのだから、ひとつと言わず、ふたつみっつあってもいいくらいだわ。

それが巡りめぐってわたしのぶんになるのも、自然な流れ。


でも、「雨水と強い日差しが苦手な花なの。ですから、あたたかい室内で、様子を見ながら水やりをしてもらえれば、安心だと思うわ」などと、明らかに花を育てるコツの話が続くと、どうにも口を結んでいられない。

陛下のついでに下げ渡すのではなくて、始めからわたしに渡す気満々なんだもの。


橋を架けたいと思ってもらえたのは嬉しいわ。でも、でも……!


口を開け閉めしたものの、わたしが公爵夫人に敵うわけもなく、うまく丸め込まれる。


結局、陛下のご友人のお誕生日当日までは、わたしが自分の執務室で二鉢ともお世話をし、早朝に摘んで陛下にお渡しすることになった。
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