真珠の首飾り、あるいは女王の薔薇
それにしても、どうしましょう。公爵夫人に花を見せ、触らせ、選ばせるに値すると認められたのは光栄だわ。


嬉しいけれど、なんともお返しがしにくい。わたし、インクをお贈りするのはかえって失礼じゃないかしら。

いえ、でも約束したものだからひとまずインクはお贈りするとして、他のものをつけたらおかしいわよね。


陛下の贈り物をお手伝いする栄誉に、普通、値段はつけられない。


だから、できるだけ希少価値のあるもので、わたしが気にしすぎないものの中から、釣り合いが取れるように取り計らってくださったのでしょうけれど……。


「川に面した小国のインクは、今日のためにわざわざ取り寄せたのかい」

「ええ。公爵夫人なら、きっと選んだ理由をお聞きくださると思いました」


相手が請い願いに来たとき、身につけている衣服や選んだ小物には、大抵理由がある。苦心して譲歩を引き出そうとしている。

そういう駆け引きを、あの方はきっと何度も繰り返してきていらっしゃる。


だから、インクを丁寧に選ぶことが、まず第一歩に繋がると考えた。

陛下の薔薇として、書簡集を取りまとめた書簡卿として、何より公爵夫人に最大限の敬意を表する姿勢として、一番ふさわしいと思ったの。


「きみの仕事熱心な姿勢と辣腕ぶりを尊敬する」

「あら、あのインクは書きやすくてよいと評判のものですから、元々欲しかったんですよ」


メルバーン卿がくしゃりと笑った。
< 113 / 174 >

この作品のキーワード

この作品をシェア

pagetop