真珠の首飾り、あるいは女王の薔薇
悶々としようにも、まずは報告である。


花の入手が叶った陛下は、たいそうお喜びになった。

花は二株とも、わたしの執務室で順調に咲いているとご報告したら、わざわざ確認に訪れたほどだった。


お礼とともにその旨を公爵夫人に伝えると、たおやかな筆跡()でお礼が返ってきた。思わず目が皿のようになる。


……夫人。わたしの字などをお褒めになるのはおやめいただきたいわ。ご自分こそが書き慣れたうつくしい字じゃないの。


公爵家訪問に際してはメルバーン卿が伝書鳩役を担っていたので、夫人の字がこんなに優雅だと知らなかった。さすが公爵家の社交を担うお方である。


……悲しい。

わたしには書簡をちょっと凝るくらいしか技能がないのに、こんなに綺麗な字が書けて、便箋を選ぶセンスまでよい方に、あちらが譲歩してくださったインクの他に何をお渡しできるというの。


ほんとうにお返しが思いつかない。


もしかしたら、お返しにお返しの連鎖にならないよう、狙ってお花をくださったのかもしれないと勘ぐってしまうくらいには、気品に満ちた返信である。


陛下のご友人のお誕生日までには、まだ日がある。陛下のお喜びの様子を交えた花の観察日記を公爵夫人にこまめに送るくらいしか、わたしにできることはない。


そうしてやりとりを重ねるうち、花はどうなっているかという建前で、ときおり公爵家でのお茶に誘われるようになった。


それは、公爵夫人と二人きりだったり、メルバーン卿と二人きりだったり、初回と同じく三人だったりしたけれど、あの眩い花園の、白い円卓であることは変わらなかった。


通ううちに公爵家の方全員にご挨拶をし、顔を覚えられ、今ではすっかり広い公爵家の間取りを覚えてしまったほどだった。
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