真珠の首飾り、あるいは女王の薔薇
メルバーン公爵家に通うようになって、メルバーン卿のすごさをまざまざと思い知った。
本人の意欲と努力によって上等な教育をものにした人は、ほとんどなんでもできるのだ、という、高等教育を受けた高位貴族嫡男の見本のような人。
実務をこなし、社交の経験があり、教養豊かで言葉は選び抜かれ、的を射ている。
知識が広いので大抵の話題についていける。分からないことは興味と関心を持って聞き、丁寧な相槌を打つ。
つまり有能なのである。
メルバーン卿は何でも一通り手習いを済ませたのではないかと思うほど、さまざまな音楽的素養がある。
中でもバイオリンの名手で、本人が一番好んでいることもあり、生家であるメルバーン公爵家では、ときおり手慰みに弾いている。
メルバーン卿が楽器を好むなんて、ただの同僚のときは知らなかった。
わたしはできる限り彼を避けていたし、そういう噂話は聞かないようにしていたし、メルバーン卿は仕事場で趣味の話をするような人ではない。
背が高いのもあって手が大きすぎて、一番大きなつくりのバイオリンでも少し弾きにくい音がある、というのは、ご本人ではなく、お母さまのアレクサンドラさま情報。
「ごめんなさいね、今日はあなたがいらっしゃると伝えておいたのに、すっかり夢中になって……」
「いえ。王城の私室では、周囲の目を気になさって、演奏できないでしょうから」
王城といえど仕える者たちの部屋は簡素なつくりをしているので、演奏すると音がそこらじゅうに響いて迷惑になる。
何より、メルバーン卿が弾こうものなら、絵になりすぎて女性陣の目の色が変わってしまう。渋滞待ったなし。気絶者多数になること請け負いである。
本人の意欲と努力によって上等な教育をものにした人は、ほとんどなんでもできるのだ、という、高等教育を受けた高位貴族嫡男の見本のような人。
実務をこなし、社交の経験があり、教養豊かで言葉は選び抜かれ、的を射ている。
知識が広いので大抵の話題についていける。分からないことは興味と関心を持って聞き、丁寧な相槌を打つ。
つまり有能なのである。
メルバーン卿は何でも一通り手習いを済ませたのではないかと思うほど、さまざまな音楽的素養がある。
中でもバイオリンの名手で、本人が一番好んでいることもあり、生家であるメルバーン公爵家では、ときおり手慰みに弾いている。
メルバーン卿が楽器を好むなんて、ただの同僚のときは知らなかった。
わたしはできる限り彼を避けていたし、そういう噂話は聞かないようにしていたし、メルバーン卿は仕事場で趣味の話をするような人ではない。
背が高いのもあって手が大きすぎて、一番大きなつくりのバイオリンでも少し弾きにくい音がある、というのは、ご本人ではなく、お母さまのアレクサンドラさま情報。
「ごめんなさいね、今日はあなたがいらっしゃると伝えておいたのに、すっかり夢中になって……」
「いえ。王城の私室では、周囲の目を気になさって、演奏できないでしょうから」
王城といえど仕える者たちの部屋は簡素なつくりをしているので、演奏すると音がそこらじゅうに響いて迷惑になる。
何より、メルバーン卿が弾こうものなら、絵になりすぎて女性陣の目の色が変わってしまう。渋滞待ったなし。気絶者多数になること請け負いである。