真珠の首飾り、あるいは女王の薔薇
全然来ないメルバーン卿は置いておいて、お茶を始めることになった。上等なバイオリンの音を聞きながら話すのも優雅でいいわ。


「女王陛下に代わり、お贈りいたします」

「謹んで頂戴いたします」


両手で差し出したうつくしい包みを、たおやかに揃った指先が両手で受け取った。


「ありがとう。陛下からこのようにお褒めのお言葉をいただいたのは、ジュディスさんのおかげよ」

「いえ、こちらこそ、助けていただきありがとうございました」


楽しい話題に花を咲かせ、すっかりポットひとつぶんのお茶がなくなった頃、ノックが響いた。メルバーン卿が入ってくる。


「遅くなり失礼いたしました。ジュディス文官、来てくれてありがとう。申し訳ない」

「いえ、こちらこそ失礼を。お先にいただいておりましたわ」

「いいえ、わたくしが始めましょうとお勧めしたもの。ウィルったら、ほんとうに遅くってよ」


わたしの代わりとばかりに、アレクサンドラさまがぷりぷり怒っている。

わたしの母と同じくらいのご年齢だと思うけれど、公爵夫人たるアレクサンドラさまは、上品さと可愛らしさを失わないお方。


メルバーン卿の後に続いたメイドが新しいお茶を全員に配り直し、壁際に控える。


「随分と熱心に弾いていたわね」

「ええ、少々考えごとをしておりまして」


考えごとをしながら演奏するなど、優雅なシンキングタイムである。


わたしなら固まってうんうん唸るところ、この人の手にかかると片手間にバイオリンを弾く時間になるとは。


「どなたかに求婚なさるのですか」


メルバーン卿が眉を上げた。からかいはお気に召さなかったらしい。
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