真珠の首飾り、あるいは女王の薔薇
わが国では、その日会った最初に、女性を褒めるのが礼儀。

でも、わたしは褒められたときの受け答えが苦手だし、こんなに高頻度で会っているのに会う度に褒めるなんて大変すぎるし、手持ちがなくて大抵一番質のいい同じものを着ているということで、以前、わたしからお断りした。


メルバーン卿は最初、「それは困る」とこちらの申し出の了承を渋った。


「なぜです?」

「きみは有能な女王の薔薇、礼儀ではなく褒めたいときもあるだろう」


紳士らしい言い回しである。


「……お上手ですのね」

「本心だよ」

「言い直しましょう。礼儀のためであれば無理に褒めなくて結構ですわ」

「無理ということはないよ」

「屁理屈ばかりの方はいやですわ」

「これは失礼。では、きみがその紺の服でないときには褒めさせてほしい」

「……ご自由に」


とりとめもない会話をしたその場には、もちろんアレクサンドラさまもいらした。

当然服を褒めない理由はご存知のはずなのだけれど、娘のように可愛がってくださっているのもあって、わたし本人がそうは言っても、とお思いのようなのである。


メルバーン卿は「ジュディス文官のことなのですから、母上ではなくジュディス文官の意思を尊重しなくてどうするのです」と実の母をばっさり斬っていたけれど。
< 121 / 174 >

この作品のキーワード

この作品をシェア

pagetop