真珠の首飾り、あるいは女王の薔薇
「中を拝見しても?」


相変わらず礼儀正しい人だわ。


贈り物をもらったその場で包みの中をあらためるのは、通常、あまりお行儀がよくないことだけれど、わたしに早くお礼を言おうとしてくださっているのは分かる。

反応が見られるのはわたしも嬉しい。


「どうぞ」


包みをそうっと渡す。


お礼にふさわしくなるよう、便箋より少し大きい紙にメルバーン卿の大事な詩を書いた。


公国の色は赤と黄と緑。その三色を元にインクを組み合わせ、絵や模様も取り入れて、できるだけうつくしく紙面を構成した。

公国から取り寄せた紙には、アレクサンドラさまに分けていただいて今は執務室にある花の香りを移してある。


花の香りはいつか薄れ、インクはいつか褪色し、紙はいつか埃と毛羽にまみれるでしょう。


けれど、それでいいのよ。

わたしは、できるだけ長く楽しめるように、読むというよりは眺めてもらうために書いたのだもの。


メルバーン卿の懐にはきっとこれから先も、以前見せてもらった、懐かしいお方の手習いがしのばせてある。


であるならば、わたしに求められているのは白黒で読みやすく書くことではない。

実用的で実直な、ただ綺麗な字で仕上げるよりは、見た目にこだわって、飾りを入れた方がよいと思ったので。
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