真珠の首飾り、あるいは女王の薔薇
「今私は大事な話をしているんだ。後にしろ」


戸口を一瞥した男が、実に嫌そうに手を振った。不機嫌な怒鳴り声を遮る。


「いいえ、たいへん大事なお話とお見受けいたします。どうぞ続けてください」


金の盆は、女王の証。

陛下に関する書類だけを載せる盆を持っている人を後回しにするなど、不敬がすぎる。


書類を巻き留めた紐は白と青で編まれている念の入れよう。陛下の御下知による(おとな)いであると知らしめている。


メルバーン卿が盆を持っている姿なんて、陛下の執務室でしか見ない。


この盆の意味が分かるかを試すために、わざと盆に書類を載せていたのだろうメルバーン卿は、盆を掲げたまま、膝を折って一礼した。


「ご歓談中のところ申し訳ありません。ジュディス・プリムローズ書簡卿。陛下がお呼びです」


聞いたこともない堅苦しい口調は、場面に合わせてくれたらしい。


フルネームに役職呼び、しかもちゃんとカイムではなくプリムローズ。その甲斐あって、わたしにうつくしい男性が敬語を使っていることに、元夫が目を見開いた。
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