真珠の首飾り、あるいは女王の薔薇
一度口を結び、目を細めてじっと紙を見つめる。


文末には、「あなたのもっとも確実なる妻」とうるわしく添えられていて、最後にたおやかな女王の字で金の署名がある。


……この、「確実な」というのが、どの程度相手の心に響いているか。


「陛下、こちらは最愛の、などではいけないのでしょうか」


進言に、長いまつ毛の下で大きな瞳が揺れた。


「い、いけなくはないのよ。ただ、その」

「はい」

「わたくしはけっして心変わりいたしません、ということと……その、女王はわたくしただ一人ですから、確実な妻というのは間違いがないので……恥ずかしくないということとを鑑みて……」


おずおずと言い淀む陛下は可愛らしいのだけれど、問題は可愛らしさではないのである。


「『よい夜を願って』というような、妻とつかない結び文句でもよいのではないかと思うのですが」

「か、考えるわ」

「ありがとう存じます」

「いいえ。こちらこそありがとう」


口元にはいた微笑みを、意識して深くする。


「陛下、恐れながら重ねて申し上げます。これは一番大切なこととして、どうかご検討ください」

「ええ、何かしら」

「陛下は、字を書くことがお好きではいらっしゃらないでしょうか」


女王は黙して答えなかった。


地雷を踏み抜いたかもしれないわ。それでも言わなければならない。


この状況は、わたしなら嫌だもの。
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