真珠の首飾り、あるいは女王の薔薇
……陛下が呼んでいるというのは嘘でしょうね。わたしはちゃんと、陛下にお願いしてからこの部屋に来たのだもの。


ということはつまり、どういうわけか事情を知ったメルバーン卿が、手助けに来てくれたらしい。


メルバーン卿であれば、同じ文官、同僚として呼びにきてもおかしくない。

あまりにも整った外見は、文官のお仕着せの奥から明らかに高位の身分を匂わせていて、無碍にしにくいことも理由でしょうね。


「謹んでお受けいたします」


こちらが膝を折ったので、目を白黒させていた男はようやく、間違いなく陛下がわたしをお呼びと分かったようだった。


「陛下……? 書簡卿だと……?」

「ええ、女王陛下です。勅命とあらば急ぎ向かう必要がございます。お客さま、ご用件はお済みですか。書簡卿に、まだ、何か」


盆や留め紐の意味、わたしのお仕着せの襟に刺繍された紋章については、この人に分かるはずがないと思っていた。


でも、書簡卿と呼ばれていることも知らないなんて。わたしが叙爵されたことも聞いていないとは。


わたしは一時期話題の人だったのだから、わたしの夫であると知っている人から、「奥さまが叙爵されたとか」くらいは挨拶代わりに振られてもおかしくない。

そんな世間話をしてもらえていないのなら、周囲との関係はよろしくない。何かやらかしたのだ。


何より、完全にプリムローズ家から縁を切られている。


家族に迷惑をかけないなら、ほんとうにただの他人として扱っても問題ない。遠慮はいらないわね。
< 130 / 174 >

この作品のキーワード

この作品をシェア

pagetop