真珠の首飾り、あるいは女王の薔薇
「陛下の署名はどうやって手に入れた? どうせ偽造だろうと思ったら本物だと突き返されたぞ。いくら王城にいようと、あのようなお方に会う機会は少なかろう。どうやって取り入ったのだ!」

「もちろん、離婚したいとご相談してご署名いただいたのです」


ここで引き下がらないから、このひとは出世しないのよ。


対応してくれているメルバーン卿を無視するのはよくない。そもそも陛下のお呼び出しより自分の陳情を優先するなど、怒り心頭とはいえ、物事の順番を分かっていない。


よい夫だとは思わなかった。立派な人だとも思わなかった。

ただ、一緒に過ごした苦い思い出があった。少しばかりの情があった。


刺々しい態度に、すべてが脆く変質するのを感じる。かつての夫を苦手な人の分類に入れると、陛下の薔薇として、侮辱に甘んじるわけにはいかなくなった。


息を吸い、背を伸ばす。


「ウィリアム・カイムさま。わたしとあなたは、他人になりました。陛下の思し召しを、ほんとうに覆せるとお思いですか」

「何を言っている」

「この嘆願書に意味はないと申し上げているのです。わたしは偽造も不義理もしておりませんし、あなたとのご縁を回復したいとは思いません」


わたしは、あなたの前で綺麗な字を書いたことはありませんもの。
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