真珠の首飾り、あるいは女王の薔薇

十二粒目、あるいは十二枚目

わたしに続いたメルバーン卿が執務室の扉を閉めずに中に入ったので、こちらが戻って扉を閉める。


物言いたげな視線に、「個人的な話になるかと思いますから」と微笑んだ。


メルバーン卿の話題は先ほどの珍事に違いなく、それはわたしの個人的な話に他ならない。薔薇の札が手元にあったら掛けたいくらいよ。


お茶を淹れ、二人とも椅子に腰を落ち着ける。


「きみにも考えあってのことと思うが、お節介ながら言わせてほしい。ああいうときは、一人で行くものではないよ」


挨拶もそこそこに、いつもの口調で苦言を呈したメルバーン卿に苦く笑う。心配をかけたらしい。


「陛下が近くに衛兵の方をつけてくださいましたわ」

「見えないところにいたのでは、異変に気づくのが遅れるだろう。もし口を塞がれたら、助けは呼べない」

「屈強な男性がそばにいれば、興奮するのは明らかでした。あの人を刺激したくなかったのです」


ああいう人ですから。


最後まで騒いでいた後ろ姿を思い出したのでしょう、伏したヘイゼルがゆっくり瞬きをする。


「……私は彼を刺激してしまっただろうか」


申し訳なさそうに、肩身が狭い様子でこちらを伺うメルバーン卿に、意識して笑いかける。


「わたし以外に誰か来るとは思わなかったでしょうから、驚きが強かったのではないかしら。どちらかというと、メルバーン卿の来室は、あの人を抑えてくださったと思います」


高貴な雰囲気で圧倒していたとも言う。


ご迷惑をおかけして申し訳ありませんと言おうとして、先ほど珍しく遮って止められたのを思い出し、謝罪ではなくお礼を伝えることにする。


「来てくださって助かりました。お手数をおかけしました」

「いや」


紅茶を傾けたメルバーン卿は、口を閉じ、開け、閉じ、再び開け、やはり言い淀んで、言葉を選びながら、ぽつりぽつりと口を開いた。
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