真珠の首飾り、あるいは女王の薔薇
「メルバーン卿は、どうしてあの場にいらっしゃったんですか?」

「廊下を歩いていたら、何やら不穏な警備を敷かれた部屋を見つけてね。何事かと衛兵に尋ねたんだ」


そうしたら、書簡卿の元夫が訪ねてきていて、随分と興奮して離婚届を覆そうとしているようだ、と言われたそうよ。


それを聞いてすぐさま陛下の元に急いだメルバーン卿は、その場で法律に照らした念書を作成した。

しきりに気を揉んでいる陛下に願って公印をもらい、盆と紐を引っ掴んで引き返してきた勢いのまま、何気ないふうを装ってこの部屋に滑り込んだのですって。

すごい行動力だわ。


「勝手に割り込んで、失礼した」

「いいえ。助けてくださって、ありがとう存じます」

「いや。大変だったな。お疲れさま。これでもう二度と、あの者はきみに手出しができない」


公印だから、世代や法が変わっても効力を失わない。あの人は、それも分からないようだったけれど。


「お疲れさま、と言われるとは思いませんでした」


思わずこぼすと、そうか? と首を傾げられる。


「きみが今回一人で対応したのは理由あってのことで、危険度を下げようとしたからだ。大変な思いをしたことも、かつての夫が随分と印象的な人物であることも、決してきみを損なわない」

「は、はい」


印象的。あの人を指して、なんともまあ紳士的な言い回しである。


さすがメルバーン卿、遠回しで適切な言葉をよくご存知だこと。
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