真珠の首飾り、あるいは女王の薔薇
「ご心配をおかけして申し訳ありません。いろいろとお力添えをいただきまして、ありがとう存じます。おかげさまで区切りがつきました」

「いいのよ、いいのよ。お安い御用だわ。わたくしの身分は、国民を守るためにあるのですもの」


ぎゅうと、背中に回る腕の力が強くなる。


「……怖い思いをしなかった?」


そっと尋ねられて、意識して口角を上げた。


「はい。メルバーン卿が、すぐに来てくださいましたので」


見上げた隣の長身が、腰を深く折って言葉を引き継いだ。


「突然のご対応ありがとうございました。先に衛兵の方よりご報告があったかと思いますが、おかげさまでつつがなく対処できました」

「あなたが駆け込んできたときは何事かと思ったわ。ジュディスのことが心配なのに、さらに何かあったのかと」

「驚かせて申し訳ありません。火急の件でしたので」


からかうような陛下の言葉を、メルバーン卿は淡々と受けている。わたしには、陛下に抱きしめられたまま、降ってくる言葉に固まることしかできない。


「何をするのかと思ったら、わたくしの紙とペンで念書を作るし」

「手持ちがございませんでした」


……そ、それはそうよね。言われてみれば陛下の執務室にあるものを借りているに決まっているわよね。


ただの念書に予算がかかりすぎである。
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