真珠の首飾り、あるいは女王の薔薇
「もちろん喜んで受理したけれど、署名と公印に飽き足らず、盆と紐も借りていくし。書類の作成も紙を巻くのもやたらと素早いし」

「仕事で慣れておりますので」

「優雅に歩いているふうで、やたらと歩くのも素早いし」

「走るわけにはまいりませんでした」

「あなたの有能ぶりはよく分かっているつもりだったのだけれど、こういうことに能力を使うとは思ってもみなかったわ」

「私もです、陛下」


メルバーン卿が、静かに笑った。一呼吸置いて、また生真面目な顔に戻る。


「……ですが、火急の件でした」

「ええ。あなたが有能でよかったわ」

「ありがとうございます」

「わたくし、仕事でないときも、あなたがこんなふうに生真面目だとも、知らなかったわ」

「……お褒めいただいたと思うことにいたしましょう。ありがとうございます」


メルバーン卿はあくまで淡々と答え、陛下はようやくわたしを離した。


着席を促され、ようやく腰を落ち着ける。紅茶を傾けながら、陛下は改めて尋ねた。
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