真珠の首飾り、あるいは女王の薔薇
「わたくしが貸したものは、少しは役に立ったかしら?」


あのひとには、盆も紐も分からなかった。

けれど、陛下の優しいお心遣いと、メルバーン卿の踏んだ手順をわたしに悟らせ、安心させるには充分だった。


「どうだろう、ジュディス文官」


話を振られて微笑む。


「たいへん役立ちましたわ。ありがとう存じます、陛下」

「いいのよ」

「メルバーン卿も、ありがとう存じます」

「いや」


迷惑をかけた衛兵の方や門番の方などには、後日個人的にご挨拶に伺うことにする。


今日はほんとうに災難だった。でも、突発的な対応をさまざまな方に助けてもらえたことは、わたしの仕事ぶりを認めてもらえたみたいで嬉しい。


あのひととの暮らしは苦しかった。


その中で、お世話になった夫人に少しでもお役に立ちたいと思った。

そのご縁で陛下に見い出していただいたのなら、過去も、わたしの努力も、すべてが無駄ではなかったのだわ。


時計が短く鳴った。


「あら、たいへん。もうすぐ日付が変わるわ」

「ご報告が遅くなりまして……」

「いいのよ、ジュディス。このまま手伝って頂戴」

「もちろんです」


陛下の執務室にいるのだからちょうどいいと、そのままわたしの仕事が始まった。


流れで、陛下とわたしとメルバーン卿の三人で、王配殿下へのお言葉を一緒に考える羽目になったのは、メルバーン卿には少し申し訳なかったかもしれないわ。
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