真珠の首飾り、あるいは女王の薔薇
陛下のお言葉をお手伝いするわたしの仕事は、夜に発生することが多い。


陛下には、夜遅い時間に来たメルバーン卿を逃す手はなく、新たな視点を持った節度ある獲物が、自ら罠にかかったように見えたのでしょう。


「あなたの意見も聞けたら嬉しいわね」と微笑む陛下のお願いを、指名された者としても、臣下たる文官としても、メルバーン卿に断る選択肢はない。


いつもより盛り上がり、時間をかけて書き上げた陛下にお喜びを申し上げ、二人で女王の執務室を辞す。


扉の外はすっかり暗くなって、灯りが焚かれている。


「随分と夜が更けてしまったな」

「ええ。申し訳ありません。でも、おかげさまで陛下が楽しそうで、何よりでした」

「ほんとうに。あれはどう考えても、私で楽しんでいらした……」


質問責めだったものね。メルバーン卿に恋愛の話やら言葉遣いやらを根掘り葉掘り聞くだなんて、陛下くらいだと思うわ。

ご友人? 同僚? との会話でも、あまり詳しく話していなかったもの。


遠い目をしたメルバーン卿が足並みを揃える。わたしの私室まで送ってくれるつもりらしい。ほんとうに律儀な人。
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