真珠の首飾り、あるいは女王の薔薇
「ジュディス文官、どうした? 私を引き留めたのには、何か理由があるんだろう」


扉を閉めた途端、メルバーン卿が短く聞いた。


淡々とした問いかけに、思わず笑いがもれそうになって、慌てて飲み込む。


対価代わりの名前は一度しか呼ばせてくれないうえ、わたしを変わらず役職で呼ぶあなたこそがずるい人だわ。

こちらの我がままに、無償で付き合ってくれるらしい。


なんて真面目なの。


線引きがはっきりしすぎていて、勘違いをさせてくれない。

わたしからの誘いに、ひとつの色気も感じていないじゃないの。


だからわたしは、この人を私室に誘おうなどと思うのだけれど。


「いいえ、あなたともっとご一緒したくなったこと以外に、理由はございませんわ」


そうか、と頷いたメルバーン卿は、言われるまま訝しげに椅子に腰を下ろした。その向かいにもう一脚椅子を持ってきて、わたしも座る。


「ジュディス文官」

「なんでしょう」

「眠れないんだろう?」


短く確信に満ちた問いかけは、図星だった。
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