真珠の首飾り、あるいは女王の薔薇
「……ありがとう、存じます」


ひどいことを頼んでいる。完全に甘えている。そう、わたしでも分かる。


だというのに、ことさらうつくしい笑みを浮かべたメルバーン卿は、「いや」とゆっくり首を振った。


「いつまで、お邪魔していてもいいだろうか」


優しい言い回しは、こちらを怖がらせないための配慮に満ちている。


「いつまででしたら、お時間がありますか?」

「一晩中かな。いつまででもいられるよ」

「あら……」


お互いに譲り合って、全然終わりが決まらない。


「うーん、困ったな」

「わたしは嬉しいですわ」


ありがとう、と律儀に相槌を打ったメルバーン卿は、膝の上で両手を組んだ。


「ジュディス文官、明日は休みだろうか」

「休みではありませんが、時間はたっぷりありますわ。日中は好きに使えます」

「では、もっと夜が更けても構わないな?」

「え? ええ、もちろん嬉しいですが……」


意図を掴み損ねて瞬きを繰り返すわたしに、メルバーン卿が優しく笑った。


「星でも眺めながら、もう少し夜更かししないか」


あなたが眠るまで、そばにいる。
< 148 / 174 >

この作品のキーワード

この作品をシェア

pagetop