真珠の首飾り、あるいは女王の薔薇
「椅子で寝るわけにはいかないだろう。横になるといい」


寝落ちなんてしなさそうなメルバーン卿に、寝落ちを推奨されてしまった。


寝顔を見られたくない人No. 1すぎる。はしたなくない? 大丈夫?

……いえ、今さらね。この時間に私室にいてもらおうとする方が、よほど問題だわ。


「ええと、ありがとう存じます」


お礼とともに頷いたものの、うまく立ち上がれない。見かねたメルバーン卿が椅子を下り、膝をついた。


「ジュディス文官。触れても?」


ヘイゼルに見上げられて必死に頷くと、メルバーン卿は手慣れた様子で手を取った。


さりげなく背中に手を添えて支え、ふらつくこちらを引き上げる。ベッドに座り直し、もぞりと横になると、肩まで掛け布を引き上げてくれる甲斐甲斐しさ。


高貴なひとにさせることではない。寝るどころか、むしろ、緊張と羞恥で眠気が吹き飛んだ気がする。


「あの……」

「うん?」


相槌が優しくて撃沈した。


なんでこんなことに。おかしい。いえ、わたしがお願いしたんだけれど。


混乱したまま、ゆっくり口を開く。
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