真珠の首飾り、あるいは女王の薔薇
お茶目な女王は、言葉選びに問題はない。


その可愛らしい性格が発揮されるよう手助けさえすれば、うつくしくたおやかな、愛情に満ちた書簡は、瞬く間に王配の心を掴んだ。


口論するよりもよいと、不満は選び抜いた言葉に変え、書簡でやりとりする。

書いているうちに落ち着くこともあって、その場合は恨み言を送らないので、大抵女王の書簡は明るく可愛らしい。


政務に追われて会えない寂しさを綴る。

一緒に出かけた仕事先では、受けたもてなしを引用しながら、二人で出かけられた嬉しさ、楽しさを紙に残す。


女王はその立場ゆえに多忙である。


すれ違いが解消され、今ではお互い書簡を楽しみにしているという。


王配が褒めたたえた書簡の内容が口伝いに広まり、私室で書かれる私的なものを(おおやけ)にしようという陛下の試みは、功を奏した。


王配への深い愛と国を憂う懸命さが市井に伝わり、女王の人気が確かになったのだ。


元来可愛らしいところのある方だ。うまく伝えれば、愛される性格なのは間違いなかった。


書簡を手伝うかたわら、女王はときおり、わたしに先駆けになってほしいと説いた。


女性が何を書いてもそしられぬ時代と国を目指したい。あなたはぜひその先駆けに、と。


そういうときは決まって、女王はわたしをプリムローズと呼んだ。


「わたくしの第一の薔薇(プリムローズ)、わたくしはあなたの忠義と善意を、もっとも頼りにしましょう」
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