真珠の首飾り、あるいは女王の薔薇
「あの人は、夜になるとわたしを訪ねてきました」


上書きしてほしいなんて言った手前、軽い説明くらいはするべきだわ。

全部は言わない。とても言えない。聞いて楽しい話でもないもの。よく言葉を選んで、少しだけ。


父がよかれと思って招いた、自分より大きく、力の強い年上の客人から、わたしはうまく逃げられなかった。

そうしてわたしの家に通ううち、わたしの指に指輪を与え、カイムという姓を共有し、部屋を共にした。


警吏の巡回の足音が、あの人の靴音に聞こえる。燭台の灯りに照らされて長く伸びた影が見えると、胸が苦しくなる。


「わたしは、部屋にひとりでいる夜が怖いのです。……陛下が夜にわたしをお召しになるのは、幸いでした」


陛下とわいわい言葉を考える間は、一人でいなくて済む。


椅子をベッドの近くに置いて腰掛けたメルバーン卿は、こちらが話したい分だけ、話を聞いてくれた。


「それは、陛下の執務室を辞して部屋に戻るときは、余計に落差が激しくなるのでは?」

「ええ。こう、どうしようかしらとなるときは、あります」

「そうか。……私でよければ迎えに行こうか」

「そこまでお付き合いいただくわけには……! もう子どもではないのですもの」


わたわたとお断りすると、メルバーン卿は穏やかに言った。


「きみは、もう子どもではないから、困っているんだろう」
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