真珠の首飾り、あるいは女王の薔薇
「きみは、薔薇の香りは好きか」

「ええ、好きですが……」

「きみの文に似ている香水があるんだ」


文が、香水に。わたしでは思いつかない言い回しである。


「ぜひ嗅いでみたいです」

「今度贈るよ。寝香水にでもするといい」

「えっ」


メルバーン卿は、あっさり贈るなどと言われて固まるこちらに構わずに、「いい香りがすると、ゆっくり眠れるだろう」と至って普通に話を続けている。


「それは、そうでしょうが……」

「もし困ったら、少なくとも私はきみのよい夜を祈っていると、思い出してくれ」


夜は付き添わない方がいいようだから、と穏やかに続けたメルバーン卿に、気高く生きたいと思った。


今、わたしは約束をもらったのだ。

この先もずっとよい夜が来るようにと、祝福をもらったのだ。


「ありがとう存じます。きっとよく眠れます。嬉しいですわ」

「そうなることを、私も願っている」


メルバーン卿の私室の壁には、美しい詩が掛かっている。わたしが贈った詩。この人の、大切な詩。


どんな香りであれ、宝物になるだろうと思った。今夜を抱えて生きていけると、思った。
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