真珠の首飾り、あるいは女王の薔薇

十三粒目、あるいは十三枚目

わたしをお召しになった夜、陛下は改まった口調で厳かに告げた。


「わたくしの薔薇、わたくしの真珠、ジュディス・プリムローズ」

「はい、陛下」

「ジュディス、あなたの字はうつくしいわ」


真珠のように粒が揃い、薔薇のように匂やかで、淑女の手本たるにふさわしい。

あなたの言葉ひとつひとつは真珠に等しい。


「これから先、あなたの一等うつくしい字で、わたくしの宣伝をしてほしいの」


わが国には、為政者自身が書き手を選び、存命のうちから為政者の功績をまとめる伝統がある。


だからはじめ、わたしは陛下がその伝統を引きずっているのかと思った。


違う。この方は、文字をうつくしいものとして見ている。

そのうつくしさによって、自分の権威は担保されると信じている。


つまりは、わたしを外交に使おうと言うのだ。わたしの字は、公私ともに陛下のお役に立つと認められたのだ。


感慨に視界がぼやけた。頭を深く下げる。


「ジュディス、改めて聞くわ。わたくしの薔薇(プリムローズ)と、呼ばせてくれるわね?」

「どうぞ御随意に、陛下」

「ありがとう。わたくしの治世を、一緒につくって頂戴」


──女王たるわたくしにふさわしく、優雅に、華やかに。


侍女たちによって磨き上げられた指が、ぱちり、と扇子を閉じる。


「うつくしい字を書く者を、わたくしが見るだけの書簡係に留めておくのはもったいないわ。あなたのうつくしい字によって、わたくしの功績を広めるのよ」


たとえばあなたを見い出したこととかね、と女王が穏やかに笑った。
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