真珠の首飾り、あるいは女王の薔薇
「もう、陛下。お上手なんですから」

「あら、あなたを召し上げたのは、掛け値なしにわたくしの一番の功績だわ」


これだから、このお方は好かれるのだ。


「おかげさまで、わたしの名はもう充分広まっておりますわ。わたしは陛下の薔薇、陛下の真珠ですもの」

「あなたは確かにわたくしの薔薇だけれど、名が広まったのはわたくしの臣下(薔薇)だからではなく、あなたが有能だからよ」

「ありがとう存じます」


このお方は、およそ自由というものを、王座に座った時点で失った。


自由を手放す代わり、国のため、民のために身を粉にして働き、政を司り、よい国を目指すことが、このお方の立場を盤石にする。

そういうただ一つの地位だった。


この国を背負うためには、王配との関係が切り離せない。


夫婦関係が冷えては後継ぎ問題が起こる。ご落胤がそこらじゅうにいるようでは国が荒れる。


陛下が若い燕を囲わず、貴族に珍しく一夫一妻を貫いているのは、子孫が内乱の御旗にされるのを防ぐため。


陛下が王配殿下を愛しているのは確かでしょう。けれど、わたしを取り立てたのは、愛ゆえだけではないはずよ。
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